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「ケアプランの自己作成者が語る利用者のホンネ」(長岡美代)
中央法規出版「ケアマネジャー」2001年8月号
最前線レポート:ケアプランの自己作成者が語る利用者のホンネ


 介護保険の基本は利用者本位。当然、ケアプランも利用者・家族が作成することができる。だが、実際に自己作成している人は少数派だ。実践している利用者はどんな思いから自己作成に踏み切ったのか、そのメリット・デメリットにはどのようなものがあるのか、セルフケアプランの現状を追った。

「皆さん、今日はお集まりいただき有り難うございます」
 鈴木三恵子さん(静岡県、62歳)は、自宅に集まったホームヘルパーらを前にこう切り出した。この日は、ご主人の岳夫さん(72歳)の介護について、サービス事業者が集まって話し合いをすることになっていた。いわゆる「サービス担当者会議」と呼ばれるものだ。だが、その主催者はケアマネジャー(以下、「ケアマネ」)ではない。三恵子さんだ。というのも、彼女がご主人のケアプランを作成しているからである。
「主治医と訪問看護婦さんが最近変わりましたので、改めて主人の介護について確認をしておきたいと思います」
 当初は主治医と訪問看護婦も参加の予定だったが、急用で来られなくなった。そのため、ヘルパーらが日頃の介護で感じていることや疑問に思っていることなどを伝えあった。話しはリハビリの方法にまで及び、いかにして主治医や訪問看護婦と連携をとったら良いのかについても意見が交わされた。
 開始から約2時間。ようやく話しもまとまってきたところで、「それでは、これからもできるだけ長く座位がとれるように訓練していきたいと思いますので、よろしくお願いします」と三恵子さんが会議を締めくくった。
 参加したヘルパーの1人は、会議の感想を「ふだん会って話すことの少ないヘルパー同士の考え方を共有できたり、主治医の指示を確認できるので助かります」と話していた。

「夫の望む生活を最も知っているのは私です」

 ケアプランといえば、ケアマネが作成するものと思っている人は多い。だが、鈴木さんのようにケアマネに頼まずに、自分で作成する人もいる。旧厚生省(現厚生労働省)が行った調査によると、2000年4月1日現在で全国のケアプランの自己作成者は4,474人に上った。当時は、介護保険施行前後の混乱から、ケアプランを作成してくれるケアマネを探せず、介護サービスを受けられない人が出るのではないかと心配された。そのため自己作成者のなかには、「ケアマネが見つかるまで」という過渡的な理由の人もいた。同様の調査はその後行われていないため、現在の実数がどの程度なのかはわからない。だが、鈴木さんのようにケアマネに依頼せず、引き続き自己作成をしている人はいる。少数派であることは確かだが、なぜ自己作成をしようとするのかーー。その周辺の事情を探ってみたい。
 まずは、冒頭の鈴木さんの理由から。
「私はこれまで7年間、主人を介護してきましたが、主人の様子も知らなければ、その介護に携わったこともない人には任せられないと思ったのです」
 これまで利用していた介護サービスを中心に、介護報酬額のリストと首っ引きになりながら自力でケアプランを作成した(表2)。
「要介護5の主人は思うように言葉を発することができませんが、若い頃からクラシック音楽が大好きでした。入浴も毎日欠かしませんでした。そんな主人の生活を大切にしたいと思ってケアプランを立てました」と鈴木さん。彼女にとって、ケアプランの自己作成は当然の成り行きだったようだ。
 ケアプランを自己作成する場合の手続きは、ケアマネに依頼する場合とは異なる。まず、市町村の窓口に自己作成する旨を申し出て、「サービス利用票」や「サービス提供票」、介護報酬や事業者リストなどの書類をもらう。ケアプランの内容が決まったら、自分が受けたいと思う介護サービス事業者に予約手配。予約が完了したら、「サービス利用票」「同別表」、「サービス提供票」「同別表」をそれぞれ作成。市町村によってはこれら書類を代行して作成してくれる場合もある。
 できあがった「サービス利用票」と「同別表」は市町村に持参し確認印を受ける。「サービス提供票」「同別表」は、予約をした介護サービス事業者へ提出。さらに、月末に全てのサービスが終了したら、翌月初めまでにサービスの利用実績を記入した「サービス利用票」を市町村に届け出ることが必要だ。国民健康保険団体連合会(国保連)への請求手続きは市町村が行ってくれる。介護サービスの利用料は、ケアマネに作成を依頼した時と同じように、かかった介護報酬の1割を事業者に支払えばよい。後は、毎月これら一連の手続きの繰り返しとなる。

多忙なケアマネに頼むよりもてっとり早い

 野村節さん(神奈川県、50歳代)も自己作成者のひとりだ。義母のケアプランを作成している。介護保険について勉強していたこともあり、自分でやってみたいと思った。
「病院への通院など、急にサービスの変更が必要になっても、自分で直接サービス事業者に連絡できるので、とても便利です。最初は、支給限度額内に収めるのに苦労しましたが、慣れれば簡単ですよ」
 痴呆の夫を介護する和田愛子さん(埼玉県、65歳)は、ケアマネの多忙ぶりが気にかかり自己作成をした。
「1人当たり50件もケアプランを作成すると聞いて、どこまで対応してくれるのか心配になりました。ケアマネに依頼すると、予約の変更なども日程のゆとりが必要だったりする。それなら自分でやったほうがてっとり早い。それに介護保険の仕組みがわかるようになると、事業者の説明で不明な点があったときに質問できるようになります。わからなければ、事業者のいいなりになるしかありませんからね」
 ただ、自己作成をしていても、どのような介護サービスを、どんな場合に使ったらいいのかがわからない人もいる。
 痴呆の妻を介護する井上俊彰さん(埼玉県、71歳)は、早朝に妻の排泄介助を行うことが負担だった。それを介護者の仲間にたまたま話したら、「30分で排泄介助をしてくれるサービスもあるのよ」と教えられた。井上さんは早速訪問介護サービス事業者に連絡し、ケアプランに盛り込んだ。
「私の場合は、介護者家族の会の仲間からの支援がなければケアプランを立てることができませんでした」と井上さん。参加している介護者家族の会は「ももの会」といい、井上さんの他にもケアプランの自己作成者が数人いる。そのため、お互いに情報交換をする機会も多い。時にはサービス事業者を呼んで、仲間の立ち会いのもとで、日頃から思っている事や悩みを打ち明ける場面もある。
 「ももの会」を支援する日本社会事業大学社会福祉学部の高橋流里子教授は、自己作成のメリットを次のように指摘する。
「高齢者は体調不良などでケアプランを変更することが多い。そのため、ケアマネが介在するよりも、自己作成のほうがより実態に即したプランになることもある。それに、行政にとってもメリットはあるはず。利用者は毎月、最低1回は書類提出などで市町村窓口に顔を出す。生の声を聞くことで、行政は介護保険の実態をよりつかみやすくなるのではないでしょうか」
 ただ、行政側は必ずしも自己作成を好意的に受け止めているわけでもなさそうだ。ある行政の担当者は、「できることならケアマネに依頼してほしい。自己作成の場合、市町村が国保連に請求手続きを行わねばならず負担が増える」といささか不満気であった。他にも、「ケアマネは相談役になったり、事業者との調整役を果たしてくれるので助かる」という意見もあった。

自己作成のメリット、デメリット
 
 ところで、自己作成についてケアマネたちはどのように考えているのだろうか。
 日頃から要介護認定の訪問調査を行い、利用者の状況を見る機会が多い成田徳子さん(30歳)の考えはこうだ。
「かかわるケアマネによって、利用者の生活や受けるサービスの内容に格差が生じているのは確か。自分を守るためにも、自己作成で介護保険の仕組みやサービス内容などを理解しておくことは大切かもしれません」
 また、千葉県内のあるケアマネ(40歳代、女性)は、「自己作成には賛成です。ケアマネもすべての利用者に目が行き届いているとは決していえませんからね」と話す。
 だが、一方ではこんな声も聞かれた。
「自己作成者が事業者の情報をどれだけ集められるかが心配です。それと、予約をするにしても、ケアマネなら人のつながりで多少の無理も聞いてもらえる。自己作成者がその点で不利益を被らなければ良いのですが……」
 本来あってはならないことだが、自己作成を理由に事業者に対応を断られた利用者もいた。また、介護保険に関する最新情報が入手しにくいなどのデメリットもある。さらに、「自分や家族の状況を客観的にとらえにくいのではないか」(ある行政担当者)と指摘する声もあった。
 だが、母親のケアプランを自己作成している浅川澄一さん(東京都、53歳)は、「サービス担当者会議を開いて、さまざまな立場の人から意見を聞くようにすれば客観性は保たれる」と明快だ。介護保険の最新情報についても、「ケアマネジャー連絡会などの名簿に自己作成者も載せて、情報を流すルートを作ればいい」(静岡県藤枝市介護保険課)という意見もある。
 昨秋、自己作成に関するシンポジウムを開催した「京都マイケアプラン研究会」(小國英夫代表世話人)は、「私にもつくれますマイケアプラン」というガイドを発行した。その反響は思った以上に大きく、発行後間もなくして増刷をしたという。近々、全国の自己作成者の状況を調査し、実態を把握する予定だ。
 自己作成する理由や事情は人によってさまざま。一般的には、「書類作成が大変」「手続きが面倒」と思われがちだが、自己作成者たちはその手続き云々よりも、自分たちの意見や考えを直接的に反映できることに満足しているようだ。自己作成者の発する言葉には、ケアマネが利用者と関わる際に参考になる点も多いのではないだろうか。
(フリーライター 長岡美代)